思いがけない出会い
梅雨が明けた。いきなり暑い。夏の間は朝早く散歩するのがよい。そう思いながらも、もたもたしていると、すぐ昼近くになる。
そんなわけで、汗だくになりながら散歩道を歩く。丁度、ウラギンシジミが草の葉っぱの上の露を吸っていたので、近づいて写真を撮る。
ウラギンシジミの姿を見ながら、彼らは水のありかをどうやって探し当てているのだろう?などと考える。そうやって座って写真を撮っていると、モンシロチョウやスジグロシロチョウが体にまとわりついてくる。私が汗をかいているので、その汗に寄ってくるようだ。こういう姿をみると、まるで私がチョウを手なずけているように見えるかもしれない。
しばらく歩いていくと、ヤマユリが大輪の花をつけているのを見つけて、思わず「おお、すばらしい!」と声をあげた。ヤマユリはその香りが強烈なので、近くに花が咲いていれば香りでわかる。歩いていて、ヤマユリの香りがしてくれば、「あ、この近くで咲いているな」と思って探すことができる。
もっとも、このヤマユリの場合、あまりに目立っていたので、香りで探し当てる必要はあまりなかったのではあるが。
そうか、蝶たちも香りで水のありかを探っているのかもしれない。しかし、本当にそれだけなのだろうか?これは色々試してみないとわからないことだろう。既に研究されているのではないかとは思う。
そうして、さらに歩く。真夏の暑い日でも、木陰はひんやりと涼しい。しかし、昼頃になると、木の陰も小さくなるな、そんなことを思いながら、地面に映る木陰をみていたら、上空を何かが飛んだ。大きな蝶の影が見えたのだ。咄嗟に上を見上げた。私はたいそう驚いた。オオムラサキだ!
木の間をかなりのスピードで飛んでいく。是非とも私は写真を撮りたいと思ったので、蝶の飛んでいく方向に上を見上げたまま、少し後ずさりした。その次の瞬間である。何か夢を見ているような、一瞬の出来事。そのオオムラサキはヒラヒラと私のそばに舞い降りてきた。「とにかく写真を!」頭の中ではそう思っているのだが、手にカメラを持ったまま身動きがとれない。そのほんの1秒くらいかの後に、そのオオムラサキは私のからだに突進してきたのだ。私のからだの正面、みぞおちのあたりに突進してくるオオムラサキ。バタバタと凄い羽音をたてる。そして、一生懸命私にぶつかるのだ。「何がどうなってるんだ?」さっぱりわからない。私はそのぶつかってくるオオムラサキの驚くほど鮮やかな紫色に驚きつつも、「どこかにとまってくれ」と心の中で叫んでいた。いや、心の中だけではなく、実際に声に出していた「わかった、わかった、わかったから、どこかにとまってくれよ!」そんな風にさけんでいた。そうしているうちにもう一匹が私の頭をかすめていった。そして、その数秒後、なんと、肩にとまった。私は一気に心拍数が上昇し、震える手をおさえつつ、カメラを向けようとする。しかし、だめだ。と、思った次の瞬間、そのオオムラサキは私の手に乗り移った。内心「やった!」と思った。オオムラサキは私の手の甲に滲んでいた汗を一生懸命吸っている。そして、これが最初の1ショット。
もう、無我夢中でシャッターを切っていた。カメラは撮影した時刻を秒単位まで記録するのだが、実際、ブレブレでピントもあっていなければチョウも写っていない1ショットから20秒くらい後のショットなので、この状態になるまで、私は約20秒、このオオムラサキと格闘していたことになる。
それからしばらくは、この状態で動けなかったようだ。ずっとこの姿勢の写真が続く。そして、30秒後あたりから徐々に手を動かしていく。
この状態の写真なのだから、当然ノーファインダーだ。すなわち、ファインダーを覗いて構図を決めることが出来ない。カメラの位置だけで構図を想像しながらシャッターを切る。その間にいろんなことを考えて、カメラの設定を変えようとするのだが、相当に心拍数があがっており、それこそ震える手をおさえつつ、いつ飛んでいくかもわからないチョウと格闘する。
わかる人にはどこで撮ったかがわかる写真となっていた。
私は、この場所の自然を記録したいと思い、ずっと写真を撮り続けてきた。だから、オオムラサキの写真を、まったくどこか別の場所で撮ったとしても、それは私の目的が達成できない。いつも歩いている散歩道で撮る、このことが大事なのだ。そして、思いがけず、背景をしっかりと入れて撮ることができたのだ。
オオムラサキがいた、といっても、オオムラサキの写真だけでは、どこにいたのかわからない。だから、「ここにいた」という確かな記録を残すための写真をずっと目指してきた。そして、こういう写真が撮れた。本当に飛び上がって喜びたくなるほどであった。
そして、これは、思いがけず、撮影時刻までわかる写真となった。
実は、この時計、2分ほど進んでいる。先日から気になっていたのだが、ちゃんとあわせておけばよかったと思う。まあ、それでも誤差の範囲ではあるが。
そして、約3分間、ずっとこのままの状態で写真を撮ることが出来たのだ。本当に驚異の出来事だった。
自然は、何も見せてくれないこともあれば、時々、いったいどうしたのか?と思うくらい、凄いものをみせてくれることがある。その自然に感謝しつつ、私は、この場所のこの自然の記録をずっと残すことをこれからも続けたいと強く思う。
このオオムラサキとの出会いは、決して忘れることの出来ない、私と散歩道の自然の物語の一つとしてずっと残るだろう。






























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